山口県立美術館「防府天満宮展」(2011/9/22〜11/6)、初日に行ってきましたので、とりあえず出先での覚え書き。
- (11/25追記)公式ブログによると、総入場者数は21,708人とのこと。
- (10/2追記)10月の土曜日は午前10時からギャラリートークがあるようなので(From 公式ブログ)、これに合わせて行くのが一番モトが取れるはずです。絵巻物ってストーリーを知っていると楽しめますが、知らないと印象に残らないんですよね。(左大臣を追贈したら漢詩で拒否されて太政大臣まで追贈するくだりなんて個人的には非常に面白いと思いますけれど……、その面白さを理解してくれる人が世界に何人いるのやら。)
- 会場の最寄り駅は山口駅。ただし列車の本数は1時間に1〜2本と少ないです。新山口駅まで新幹線を使われる方は列車接続の確認をお忘れなく。まあ新山口もすべての新幹線が止まるわけではないのですが……。
- 福岡市からのアクセスはJR九州バスが高速バス「山口ライナー」を運行しています。博多バスターミナル発・天神経由で山口市米屋町まで約3時間半。料金は片道3,000円/往復5,400円ですが、1週間前までに予約&購入すれば片道1,540円です。土日祝日関係なしの出血大サービス。うらやましい。
- ちなみに新幹線利用の片道運賃は自由席で5,350円。新山口で分割するともう少し安くなります。在来線乗り継ぎでも理論上は行けますが、普通は「山口ライナー」を使うでしょうね。
- 前売券はローソンの端末「Loppi」で買えます(Lコード66092)ので、事前購入がお勧め。忘れてしまったそそっかしいお方は山口駅の2階(山口観光コンベンション協会)へ行きましょう。対面販売で買えます。(なぜ知っているかって? そりゃ私も忘れていたからですよ……。←高速バスの乗車券はLoppiで買った人)山口県内では他にも取り扱い店舗がありますので、詳細は公式サイトをチェック。
- 山口駅の改札からそのまま直進。商店街を抜けて(この途中が米屋町バス停)市役所の前まで来たら、市役所には入らずに右側へ回り込むと左手に県立美術館の建物が見えます。通用口らしき入口が先にありますが、正面玄関へはさらに回り込んで下さい。歩く距離は増えますが、「松崎天神縁起絵巻」を使った屋外ディスプレイが見られるので正面玄関経由がベスト。
- テーマカラーは濃厚なピンク色。ついに「天神さまの美術」名古屋会場の「黄色」を越えてしまいました。確実に「なぜピンクw」という反応が返ってくると思いますが、小耳に挟んだ学芸員の雑談から察するに、相当なコダワリがあるらしい。とりあえず「梅風味ってコトなのね」と勝手に解釈しています。梅味のキャンディーのパッケージに使われるような色です。(本物の梅ならこの色使いにはならないし、こうでもして無理矢理意味付けないと先に進めない……。)
- 今回のセールスポイントは「松崎天神縁起絵巻」の公開。展示の8割方はこれで説明がつきます。「山口県立美術館のあの(お世辞にも広いとは言えない)スペースで全面公開は可能なのか?」「だからって部分公開でお茶を濁されても困る」とやきもきしていたのですが、はい、やってくれました。全面公開。白い壁&特注ケースを1階にきっちり入れています。(九州国立博物館の複製承久本用展示台が80万円と聞いているので、今回はいくらしたんだろう……。)
- 絵巻の展示エリア、絵巻鑑賞に欠かせない「右から左への動線」をスムーズに確保できています。その構造は2階から見下ろすとなかなか感動します(あまりの見事さに写真を撮りたかったくらい)。とはいうものの、回廊が迷路っぽくなっているので2回迷いました。
- 松崎本は鎌倉時代のオリジナルと室町時代の複製を併用して展示しています。10月17日の休館日に行われる予定の展示替えはこれの入れ替え。「中身はまったく一緒」という話でしたが、構図は同じでも彩色のタッチに若干差異が見られます。一部見ただけですが、文字の筆跡なんかは明らかに違う部分がありますね。
- 特別展全体は2時間もあれば回れますが、最初に「松崎天神縁起絵巻」があるのでペース配分を意識しないと1階で失速する危険があります。2階から攻めましょう。体力をうまく温存しておけば、後で瑠璃光寺なんかも観光できますよ。
- 本気で鑑賞するなら「松崎天神縁起絵巻」の解説書を持ち込みましょう。せめて図書館でコピーした詞書釈文だけでも。詞書を読みふけっていると、壁面上部のあらすじも鑑賞のポイントも目に入らなくなるんですよね。
- 「松崎天神縁起絵巻」は大型本ながら軽い「続日本の絵巻」版がお勧め。新刊では手に入らないので「日本の古本屋」で探しましょう。「続日本絵巻大成」版は重量級なので図書館で閲覧し、詞書釈文のページをコピーして下さい。
- 2階の休憩スペースにボランティアの人々が作った「実際に巻きながら読める」絵巻があります(巻2と巻6のみ)。現代語訳版なので、普通の方が絵巻本体より先にこれをひもとくと幸せになれます。とはいえあまり調子に乗って読み進めると、元に戻すのが大変なので(下手すると分単位で時間が掛かる)、時間に余裕のある時に。
- 「天神縁起を読むならまず松崎本!」と前々から力説していますが、さすがに本家は面白いですね〜。読み応えがあるというかいじり甲斐があるというか。絵と解説文だけではあの絶妙さを共有してもらえないのがむずがゆい。普段は共有できていない側なので、「背景が分かると面白いんだろうな」とは、絵画全般に対していつも感じている事です。「これ何だっけ?」「○○じゃない?」の声を聞くと、「違うんですよ、実は△△で〜」と割り込みたくてウズウズ。いや「語りたくって仕方がない」というのが本音か。いい迷惑なので一応自主規制しました。
- 幕末の有名人(高杉晋作とか木戸孝允とか)の書画も出ていますので、同行者によっては「絵巻は興味がないけれど、こちらには興味津々」な反応をする可能性があります。筆者自身は「幕末ではなくてその後の天神画像で勝手に盛り上がる」タイプ。
- 意外な感じですけれど、所蔵品全部を展示しているわけではないようで、木像天神坐像2体は出ていませんでした(後期での展示予定もなし)。うち1体のモノクロ写真は図録117ページに載っています。
- 図録(2000円)も当然濃厚なピンク色。約160ページ。内容はカラー図版と解説で半分ずつ。しかしどういう意図でか肝腎の「松崎天神縁起絵巻」はかなり省略した形で掲載しています。特に詞書はこの傾向が顕著で、まず載っていないと考えておいてください。宇多法皇の前でひれ伏す人物が誰か(正解は蔵人頭藤原菅根)なんて詞書を読まないと分からないですし、紀長谷雄にいたっては姿も見せず(詞書の途中までは12ページにあるので、13ページ中段の余白に載せられたはず)。九州国立博物館が図録に絵巻全体を収録する方向にシフトしている傾向があったので(驚異の8ページ見開きなんてまさにこれ)、この細切れ収録は少なからず残念。
- チケットにしてもチラシにしても図録にしても、わざわざ透明なインクで梅鉢紋を印刷しています。透明なインクなので、光に当てるとその部分だけテカテカ光ります。
- 筆者は列車の都合でお預けになりましたが、カフェでは梅肉を使ったホットサンドが食べられます。ロールケーキも登場した模様。
- 観客層のターゲットとなる地域は北部九州と中国地方西部あたりと予想。他地域に関しては「松崎本を生で見たければ行け!」ということで。東京国立博物館と京都国立博物館への寄託をやめたそうなので、今後は防府天満宮で時々部分公開って流れになるのでしょうか。国立博物館でもワンシーンしか展示してくれなかった(しかも常時展示しているわけではない)ので、そちらの方がありがたいかも。